”破壊が無ければ再生は無い 生命の循環の永遠の形 真実の種から産まれた木”

MorningParkには大きな樹が生えていて、世界中の色とりどりの美しい花が咲き、あらゆる果物の実がなります。

このMorningParkの樹は、表現をするための掲示板です。どんな言葉でも、詩や小説、散文、イラストや音楽でもかまいません。あなたの思いを、届けてみませんか。
それはこの木を育む栄養になって、実をつけ、花を咲かせ、ここを訪れた旅人を癒します。

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森のログハウスに名前がついた日の話 えん 12/1/22(日) 3:32

森のログハウスに名前がついた日の話
 えん E-MAILWEB  - 12/1/22(日) 3:32 -
ナナシが久方ぶりに森へ行くと、えんがその小さな森の中の家に、看板をかけていた。
そこには耐水性のペンキで、黒々と太い筆文字で「双六堂」と書かれている。ナナシはそのログハウス様の屋敷に似合わない看板に、苦笑しながら言った。
「なんなん、その名前。」
「個人事務所設立したの。」
えんが、頬にペンキの跡を漫画のように残して言った。いわずもがな、手も真っ黒である。
「個人事務所。何の。」
「絵とか、文章とか、色々!」
「なんで?」
「なんでて、作家だから。」
「作家て、売れてないのに。」
「これから売れるの!!!MorningPark中で、いや世界中でみんなが読む作品書くんですから!」
「ああ、そうですか、そうですか。それは良かった良かった。」
ナナシは浮き上がりその小ぶりのログハウスの周りをぐるぐる回りながら、どうしてこの屋敷は外見より中はあんなに広いのだろうなあと思っていた。外から見ると6畳ぐらいしかなさそうなのに、実際中に入ると小さいキッチンにお風呂、本棚やベッド、クローゼットに机といろいろなものがぶち込まれている。
ひときわ大きい机は、南向きの窓に向かってどんつきで置かれている。そこから森のアカシアや楡や柏の木が見える。えんはずっとその窓辺で、思う存分執筆をするのだ。
朝も、昼も、夜も。太陽や星や月、ランプの明かりの下で。
そして執筆に疲れると森を散策する。リスを肩の上に乗せて、話しながら森を回ることもあれば、友達とボートに乗ることも、ナナシと木登りをすることもある。
台風の日の後に、友達だった木が倒れているときは、泣いて、強い風の日には森の友達の動物のことが心配で、執筆が手につかないこともある。

森の奥の、大きな泉に、銀の月が出て、水面が鏡のように見える夜に、そっとボートで出るのが好きだった。そしてボートの中にだらりと寝そべって、恋の詩を書くのだ。
往々にして、その彼の恋は叶わない。

机の前に座って、目をつぶると、彼は現実社会に帰ることが出来る。
ナナシは彼が「現実」という世界でどういう生活をしているのか知らない。いろんな時間にMorningParkに戻ってきては、彼はふらふらしている。
そしてナナシはその彼と遊ぶのだった。大体の時間、彼はここにいる。
ナナシは彼の顔を、帽子の下に隠した大きな目でじっと見つめる。そして言った。
「早く売れると良いね!現実でも、MorningParkでも!」
「だねぇ・・・。」

けれどもナナシはぼんやりと、まあ今でも十分幸せで楽しいと思っていた。
えんが売れて変わってしまったりしたらやだなと考えた。
それは昔、もう一人のえんと呼ばれていた、この町の創設者エンデリアが、自分を置いていなくなってしまった様に。エンデリアはもうずっと長い旅に出て、帰ってこない。エリアしかその居場所は知らない。(もしかしたらこの町の奥深くでずっと眠っているのかもしれない。)と、ナナシは思った。
たまに旅からエンデリアは帰ってきても、しばらくするとまた出かけてしまう。
そういえば、えんはエンデリアにあったことがないはずだ。でも、えんとエンデリア・・・あれ?

そこへ、エリアがやってきた。
「あらあら、その看板は一体なんですか?」
薄い白い透明なベールをまとい、桃色のワンピースに羽毛のカーディガンを羽織ってエリアはにこやかにそういうと、彼女は、手に持った小さいバスケットを差し出す。
ナナシが覗くとそこには焼立てのアップルパイがほかほかと甘い匂いを立てていた。
ナナシはにんまり笑ってえんに「紅茶の準備を!」と言うので、エリアとえんは苦笑いして、エリアが「よろしくお願いします」と言った。

双六堂と言う名で呼ばれることになったそのログハウスの、小さなテラスで、丸い鉄のテーブルを出して、彼らはティーパーティーをする。
「ねえねえ、えんってエンデリア様に似てるよねぇ。若いころのエンデリア様に。」
「そうかしら・・・?」
えんとエリアはぎこちなく笑った。
彼らは、えんとエンデリアの関係性を知っているのだ。それはこのMorningParkに関する、もっとも大きな秘密の一つである。
けれど、ナナシに説明したってわからないだろうしな、とえんは、アップルパイを大きくほおばりながら考えた。
小さな赤い胸毛をしたこまどりが物欲しげにやってきたので、えんはアップルパイの端を少しちぎって投げてやった。こまどりは首をかしげて、それをついばむ。
ナナシはそれをまねして、自分のアップルパイをちぎって投げてやる。

快い風が、静かに森を吹き抜ける。

こうして新しく「双六堂」と名付けられた森のログハウスの一日は、いつものように過ぎていくのだった。

終わり 2011年12月4日6:00

引用なし

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